第64回読書会報告と感想文
2025年2月24日 22:34 読書会

64回   

<参加できる阿佐ヶ谷婦人公論読書会>

おんなとおとこの工夫 生涯を連れ添うために

ZOOMによるオンライン読書会をベースに

随時リアル開催しています。

    2024.11.26開催     

 

 テーマ 

 ◆ 「高齢者の性」の総括と新たなテーマへ

《資料》

① 佐伯順子『「愛」と「性」の文化史』から「高齢化社会に

おける恋愛の将来」

② アニエス・ポワリエ『パリ左岸』読後レポート

③ 「恋愛の病理学」(仮題)

 

【参加者】5名 (女3名、男2名)

 

【参加者感想文】(まとめ:増渕)

1.井上京子さんの感想文

話し合った内容は以下の3点。

     新藤さんご提供の資料

     長谷川先生より『パリ左岸』(白水社)の読後レポート

     長谷川先生よりご提案の「恋愛の病理」。

①について。12項目のうち10番目の項目を話し合った。私は、女性の考え方は社会構成主義で捉えられると感じた。つまり女性も、育ってきた社会的背景等が変われば、自身の性への向き合い方や表現方法が変わってくると感じた。しかし、現在の日本で、若者の考え方を見ても、女性たちの考え方がすぐ変わるようには思えない。

②について。先生の読後レポートをお聴きし、その時代、その場所での人の生き方に想いを馳せた。

③について。長谷川先生の問いかけで、各メンバーが体験したり見聞きした「恋愛の病理」について話し合った。好きな相手に嫌がられるようなことを繰り返してしまう(子どもに多いが、大人になってもやっている人もいる)ケース。好きだと追われると、どんどん逃げるが、実は自分も本当は好きだったケース。好きだと追われると、絶対にこちらは好きにはならないと意地になって逃げるケース。参加者全員で共感の嵐が起こった。もっと事例が出てきそうで、今後も話し合いを深めたいと感じた。多世代家族療法で学んだ「カップルダンス」について、参加者で共有することになっている。

 

2.進藤一俊さんの感想文:

今回の読書会の第1部は私が提供した「『愛』と『性』の文化史」の第3章の「高齢化社会における恋愛の将来」、第2部は長谷川先生が提供された本「パリ左岸」白水社刊で「『光の都』パリが最も輝いた時代の人間模様」を描いた書。Amazonの解説には、「1940年から50年目まぐるしく移りゆく社会情勢と世相を背景に、新たな時代の幕開けを彩り、歴史に名を刻んだ人々の人生が交錯する瞬間を活写する」とそして「有名、無名の女性たちの人生が女性の視点から描かれ点は興味深い」と紹介されている。 

第3部は女性3名、男性2名で、それぞれ時代閉塞の中での恋愛歴を、この間学んだウエル・ビーングとして「心と身体」がどのようなものであったか、を語りあった。当然少しの「痛み」は感じたものの、前回の長谷川先生がまとめられた「性的に不健康な大人とは?」の問と「性的に健康な大人」の回答を理解しているかを確かめながら、みなさんの語りに励まされ、未完に終わったエピソードを語ることができた。

 

「愛と性の文化史」の著者は巻頭言で「愛や性という言葉も、日本の歴史の過程で「誕生」したものであり、私たちの恋愛観も性愛感も、こうした歴史ぬきには語れない」と語っている。その著者が本の最終章で扱った「高齢者の恋愛」では、「生きた証」、「生き直し」としての恋愛を例示し、より制約された女性性を持つ女性がより精神性を重視する傾向があることを指摘しつつも、この傾向さえも、社会認識の変容に合わせて変化する可能性を指摘している。

私がこの性認識の歴史性で注目したのは、明治から第二次世界大戦までの時期の男女観にあった。「性欲」と言う概念さえ歴史性や「国家的」制約を持つ概念であるとも言える時代で生きざるを得ない人々の「叫び」が聞こえるような気持ちで、私はこの書で紹介されている文学者や知識人の言葉を読んだ。

幸い、私たちはこの読書会を通じて、自由恋愛での結婚が何時の時代にトレンドとなり、そしてそのトレンドがどのような環境下で少子化に向かうようになったかを学んだ。そして異文化交流が進む中、国際的には常識的な「性的に健康である大人」のクライテリア(評価指標)を知り、ウエル・ビーングの基本的な要素である性への理解を深めて来た。そして後期高齢者になっている今でも、このテーマに関心を持ち続けることができていることを幸せだと思っている。

私たちの力では選べないのは「家族・国・門地」そして「ジェンダー」であり、「出生の時代」と考えることが出来る。この読書会のテーマである「添い遂げる」ための作業は、それぞれの連れ合いとの関係性での課題であると思えるが、今回の三部作となった対話を通じて、それだけではないのではないかと思うようになった。それはもうひとつあり、それは「内なる自分の中にある「性・愛=愛着・承認」を「連れ合い」、「パートーナー」と言った人物だけなく、社会性を持った課題、芸術、学術などを含め、所謂「アイデンティティー」と言われる対象をも包含する事象でないかと思うようになってきている。

 

第2部の書籍の紹介を受け、学生時代を思い出した。高校時代は図書館でバートランド・ラッセルを読んだが、あまり感激をせず、和辻哲郎「風土」を読み感激をし、若手の教師からロシア文学を紹介され、これらの文学から女性を理解したと思い込む間違いをした。大学では文学部の友人から戦後の埴谷雄高、坂口安吾などを読んでいないと馬鹿にされ、必死にこの種の文学を読む。その後「チボー家人々」と出会い、ジャックとアントワーヌを融合した人格を思い描き、これを生き方の指針にした。長谷川先生のお話を伺いながら、実存主義との出会いとそれに対する理解がどの程度だったのかを振り返ってみた。サルトルを直に読むことはなく、雑誌「世界」、「展望」、「思想」などを読み、最終的にはエッリヒ・フロムに行きついた。いまでも「世界」は時々読むようにしている。

 

3.森友 由美子さんの感想文:

勉強不足のまま臨んだ読書会でしたが、学びと笑いと多くの示唆を頂ける時間となりました。日頃、あまり考えていない分野でもありますが、この読書会では、人間を根源的に捉えてカップル支援に活かせるという貴重な時間とも思えます。

人間の3大欲は、食欲、睡眠欲、性欲、どれひとつを欠いても、人間としてバランスを崩してしまいます。

溢れるばかりの日本の食生活、安眠できるようにとあらゆるグッズや対処法が見られるなかで、性欲は道徳や犯罪との微妙な線引きの中で、深く日陰に追いやられてきたように感じます。

進藤さんが、「愛と性の文化史」を体系的に大変わかりやすく纏めて下さり、男女の違いを12項目に分類してくださいました。印象的だったのは、男女はその大小はあっても生涯性欲を持つことを前提に、男は身体で女は心で恋愛をするのだと。男性にも精神性はあるのだの反論には、ホッとしたり。

また、先生がご提示下さった「パリ左岸」からヨーロッパの歴史的背景を伺い、男性優位社会から男女平等までの道程はどこにおいても厳しく、今もその過程にあることを理解しました。

別の資料からは、江戸の色事と明治の恋愛の違いを明確にされ、現代の色事がバーチャル化し人間の肉体が人工物との境目を失ってきているという著者の指摘には、かなり衝撃と納得を得ました。それは、現代の非婚化にも繋がる情報かもと。

 

あくまでもカップル支援のためのこの読書会では、先生が新たに提示された「恋愛の病理」(3年前のコンクールテーマ「恋愛のジレンマ」からの発展型とも)を考察し、形として発信していくことも重要であると再確認しています。

 

4.増渕広美の感想文:

今回の読書会は、進藤さんのレポート、長谷川先生の『パリ左岸』読後レポート、長谷川先生からのテーマ「恋愛の病理学」の三本立て。

進藤さんのレポートは、このところ話題にしてきた「高齢者の性」のまとめともなる力作で、佐伯順子著『「愛」と「性」の文化史』(角川選書)の最終章(第三部の第三章「高齢化社会における恋愛の将来」)の要点整理。12項目のどれもが興味深い内容であるが、その中でも特に、次の二つに心惹かれた。

一つは、高齢女性の恋愛を、高齢期に新しく出会った男性との恋愛ではなく、若い頃に出会った男性との恋愛の再燃、つまり、若い頃の「生き直し」と見ている点。もう一つは、日本の中高年齢者の恋愛を通して感じられる恋愛に対する男女の意識のすれ違いについて。

後者では、「女性は心で恋をしたいと思うけれど、男性は身体で恋をしたい」「女性は精神的、経済的な安定を求めているが、男性は性的な安定を求めている」「女性はロマン小説の中に、男性はポルノ小説の中に生きている」という趣旨の猪熊弘子さんの「婦人公論」の記事(200011月号)を引いているが、男女の恋愛観の一側面の説明として、とても興味深かった。

長谷川先生の『パリ左岸』の読後レポートは、私の知識の外にあった1940年から50年に至る激動の10年間の、パリにおける歴史に名を刻んだ人々の生の交錯について触れられ、とても新鮮だった。「実存主義」とボーヴォワールとサルトルの「契約結婚」の二点についての先生のお話がとても興味深く、この二人の実像にさらに近づいてみたいと思った。

「恋愛の病理学」については、先生からの例示、「好きな人がいても好きとは言わず、反対なことをして嫌われる」や「人を好きになり追いかけるが、相手がちょっと振り向くと気持ちが薄れる」という話から、小学生の頃のスカートめくりや本当は好きな女子へのわかりやすい嫌がらせ、執拗なからかい、まさに先生の例示にあるような恋心の冷め方など、参加者の経験談が数多く出された。今後さらに深く考えていくことで、カップル支援につながる何かを得られるのではないかと感じている。ぜひ、今後の読書会のテーマとして取り上げたい。

以上